「福岡はブラックホールらしい。」

初めてこの話を聞いたときは、「まさか街ごと宇宙の彼方へ吸い込まれるわけでもあるまい」と思いました。しかし、どうやら吸い込まれるのは人の心のようです。

福岡には、ほどよい都会感があります。地下鉄に乗れば主要な場所へすぐ着き、空港は街から驚くほど近い。海も山も近く、「今日は山でリフレッシュ、帰りに海鮮でも」という欲張りな休日も実現できます。

そして何より、食べ物がおいしい。

朝は明太子、昼はラーメン、夜はもつ鍋。締めに屋台へ寄れば、「今日は食べ過ぎたな」と反省しながらも、翌日にはまた別のお店を探している自分がいます。

さらに、人の距離感も絶妙です。ほどよく親しみやすく、ほどよく放っておいてくれる。その居心地の良さが、「もうここでいいか」と思わせるのでしょう。

その結果、「数年の転勤のはずだった」「大学卒業後には地元へ帰る予定だった」という人たちが、気が付けば何十年も福岡で暮らしている……。

これこそ「福岡ブラックホール説」の正体です。

もちろん、本当のブラックホールのように光まで飲み込むことはありません。ただ、休日の予定と財布の中身は、グルメやイベントに吸い込まれがちです。「今日はラーメンだけ」のつもりが餃子を追加し、帰りに屋台へ寄ってしまう。その重力は、物理学ではまだ説明できていません。

「住みやすい街ランキング」で福岡が上位に名を連ねるのも納得です。便利さ、美味しさ、人の温かさ、そのすべてが絶妙なバランスで共存しています。

もしあなたが福岡を訪れるなら、どうかお気を付けください。

「また来よう」と思った時点で、すでにその重力圏に入っています。

そして次に気付く頃には、不動産情報を眺めながら、「福岡に住むのも悪くないな」とつぶやいているかもしれません。

それが、福岡ブラックホールの、いちばん恐ろしいところなのです。